みなさんこんにちは 重田勝介です この講義では デジタル化が教育に与えるインパクトについて解説します この講義の学習目標はこちらの2つです 1つめがオープンエデュケーションの活動の基礎となる デジタル化の特徴について説明できること 2つめは デジタル化が教育に与えうる影響について 説明できることです ここまでオープンエデュケーションに関する様々な活動や MOOC、またその活動の 背景や課題などについて解説をしてきました ここで一度 このオープンエデュケーションそのものが持つ性質に立ち戻って さらに深く考えていきたいと思います と言いますのも このオープンエデュケーションというのが いわゆる未来の学びを本当に変えるのかと というところについて深く考えたいからです このオープンエデュケーション自体は 誕生以来まだ十数年しか経っていない 非常に若い活動だと言えます これが一種のバブルにしか過ぎないのか もしくは何かの形で繋がっていって これからの教育や学びのあり方を変えるのかということは まだ誰にも分かっていないと言えます ここで、このオープンエデュケーションの活動が 持っている性質に改めて着目して この可能性と課題について考えてみたいと思います オープンエデュケーションの普及に 不可欠である2つの要素 これがデジタル化とオープン化です デジタル化は、これは皆さんご承知の通り 電子メディアというのが一般的に広がった つまり皆さんの生活の中に デジタルのメディアプレーヤーですとか パーソナルコンピューターもしくはテレビ ビデオを含めてですね、電子メディアというのが ごく当たり前に使われるようになったということ またコンピューターやインターネットというものが 社会インフラとして普及をしたこと また、デジタル技術の集合としてこのような電子教材 今回ここまで紹介してきた オープンな教材もその1つに含まれると思いますが これが普及してきたこと これらの要素がデジタル化です またオープン化については大学や企業によるeラーニング このようなものも広まってまいりましたが 今までは これはある組織の中での教育活動であったわけです ところが インターネットというのは本来オープンな ネットワークでありますので これが外へ向けての広がりを持つというのは 性質としても避けがたいと こういうものはオープン化の要素かと思います そもそもデジタル技術とは何なのでしょうか これは概念的に申し上げると この連続量で表示されるような 状態を示すデータをですね 量子化・離散化すると そうすることによって 膨大なデータを 実用上問題のない値にすることで 電子媒体の中に格納できると そういうふうな技術だったんですね これは近年の情報技術の進化の中でも 非常に重要な位置を占めています このデジタル技術が普及したのが 20世紀以降です このことによって 人は、より大量の情報を便利に手軽に扱えるようになったと また今の社会は いわゆる高度情報化社会 非常に大量の情報がやりとりされると これを(ニコラス・)ネグロポンテ氏が言った「ビットの時代」と言われますけども こういうふうな時代状況になってきたということです デジタル技術がもたらす影響について ここでは国領(こくりょう)先生の「オープン・アーキテクチャ戦略」から 考えてみたいと思います 国領先生は デジタル技術の普及がもたらしたものとして こちら3つを上げています 一つが情報処理・伝達能力が飛躍的に向上したと ネットワークを介して 大量の文字情報・音声・映像のやりとりが可能になったと これはみなさんが今、普段の生活で 例えばiTunes、例えばYouTube こういうものを使っていらっしゃる状況を想像すれば 非常に容易に理解できるかなと思います 2つめは 情報の非対称性の逆転と自発的増殖 若干テクニカルな単語なんですが ひと言で言うと 双方向的に情報の流通が促されたと これまでは例えば あるところから一方的に情報が与えられて それを大勢の人が受信するというものでしたが 今のインターネット上のさまざまなやりとりに 代表されるように双方向的になってきたということですね また この情報を扱うコストが飛躍的に低下した これはまさにインターネットがもたらした影響だと思います こういう中でネットワーク上で 大量の情報を処理伝送する情報環境が出現した これは喜連川(きつれがわ)先生がおっしゃる いわゆる情報爆発と呼ばれる現象だと思います 実はこういう状況はかつて一度あったことがあるんですね これは14世紀に 印刷技術が普及したとき これと対比することが可能です いわゆるグーデンベルグによる印刷技術 活版印刷が普及する前というのは 人は口伝(くでん)ですとか 本を手書きで写す写本によって情報伝達をしてきたと これが印刷技術によって情報の複製性というのが 向上したことで大きい変化を迎えたと 印刷技術によって書籍は普及したと これによって 情報を本という形で持ち運ぶことを容易になったと これによって 情報の拡散性が増大したと言われています このような状況と対比したときに デジタル技術は更なる飛躍を生んだと言えるでしょう つまり情報インフラを構築されたと かつ、ハードウェアが指数関数的に進化したと このことによって、このような情報の可搬性が さらに増したということです また、デジタル技術がもたらした2つめの影響 情報の非対称性の逆転 こちらによって あらゆる主体が受信者にも発信者にもなる そして発信者が増えることによってまた情報が増加すると つまり一方的な情報の受信者と ごく一部の発信者という状況よりも あらゆる人が発信者になり受信者になる という状況の方が 情報量が増えるということはご理解いただけるかと思います この中で いわゆるメディアの共和国と言われるものが出現したと 言えるのではないでしょうか これはですね マクニーリーらによる「知はいかにして『再発明』されたか」 という書籍をぜひご覧いただきたいのですが この書籍で紹介されているのがまさに印刷技術 によって生まれた文字の共和国という内容です つまり書籍 もしくは専門家同士が手紙によって情報を交換する 知識をやりとりするこういうネットワークができたことで 情報の伝播もしくはその情報の ある種の再生産・再発明が非常に促進された という内容をとりあげています 現在インターネット上で生まれている活動というのは まさにこれが さらに大きい規模で再来していると つまりインターネットを介した情報流通や知識共有が 言語空間の広がり、社会的なつながりに増大をもたらしたと 言えるでしょう 例えばブログスフィアという言葉があります 様々な方がインターネット上でブログを開設して それにお互いにコメントをする トラックバックをするということで情報の交換をすると それによって知識流通を図ると まさにこれが現代的な手紙の共和国 文字の共和国だと言えるのではないでしょうか このようなデジタル技術が教育にどういう変化を もたらしたかということについて考えていきたいと思います 一つは教材や教育情報の流通が促進されたということです この中で皆さんご存知の通りeラーニングが普及したと これはインターネットというものが社会インフラとして 定着したことで情報流通コストが低下したということです また、学びの場自体がネット空間上に出現したと これはまさにオープン教材を使った学習コミュニティ MOOCなどもそうかもしれませんが 時間的・空間的に縛られないような学習環境が デジタル技術によって出現したということです また先ほどの 情報の発信者が増えたということで言いますと 教える側と学ぶ側というのが ある種、非常に動的な関係を持つということです つまりこれは オープン教材を使った学習コミュニティを 想像していただければ良いかと思うんですが ある時にはその人が学ぶ側になり ある時には教える側になると またこのデジタル技術で面白いところは このような教える側、学ぶ側の主従関係や重み付けを 学習環境のデザインによって変えることができるんですね つまり例えば、これまでは ある教室空間の中で一人の先生が 多数の学生を教えたというふうなことが ある意味空間によって規定されていたわけですけども これをある意味、情報環境の中で上手にデザインすることで そのような一斉講義型もできるし もしくはお互いにフラットに学び合えるような 学習コミュニティ まさにこれはcMOOCのことかと思いますが こういうものを容易に作ることができると このような変化です また、これはデジタル技術の持つ3つめの特徴ですが 教材や教育情報を蓄積・共有・再利用する コストが非常に下がったと このことがオープン教材や電子教科書の普及を 後押ししたと考えられます この状況をトータルで考えますと デジタル技術というのは教育のあり方を より開かれたものとしたのではないでしょうか つまり、教える側と学ぶ側の関係をフラットにし より多くの人々に学習機会をもたらしたと このような教育そのものにある種の宛先を制限を 設けずにオープンにする こういうふうな学習環境というのは デジタル技術が不可欠だったのではないでしょうか このような例えば オンライン上の学習コミュニティ もしくはMOOCのような 現在、非常に注目されている学習環境を作り出す 前提を与えたのがデジタル技術だと言えます