この講義では 教育のイノベーションとMOOCという内容で 解説をしたいと思います この講義の学習目標は こちらの2つです 1つめがMOOCの持つイノベーティブな 特性について説明ができること もう1つが MOOCが既存の教育をある種、破壊する可能性があるか その根拠、限界について説明できることです 皆様の中にもこのMOOCというものが ある種のイノベーションであるという論を お聴きになった方がいらっしゃるのではないかと思います そもそもオープンエデュケーション自体が イノベーションの側面を持っているわけです すなわち 教育機関や地理的な制約を超えて 教育をオープンにできるような教育環境が出現したと このようなものは、これまでになかったわけですね かつ、MOOCの特徴と言いますのが 大学生でなくとも大学レベルの教育を 提供する教育ベンチャー企業が現れたと しかもその教育が無料であると このように非常に革新的な側面があるわけです このようなMOOCが一般的になるとすれば ある種の大学再編に繋がるのではないかと いうふうな指摘もあります このような 例えばクリステンセンの言うような 破壊的イノベーションという概念がありますが この見地から 果たしてMOOCはイノベーションと言えるのか ということについて検討してみたいと思います クリステンセンらは 「教育×破壊的イノベーション」という書籍の中で 既存の教育システムを批判しながら 新しい教育のあり方を提案しています これまでの教育システムというのが ある種、産業史の初期段階にあると 工場モデルであるという考え方のもとで 今の教育が ある種、標準化された一枚岩的なバッチ処理システムだと というふうに述べた上で この現状を維持しているだけでは教育現場の改善は 難しいと述べています ちなみにクリステンセンは 現状の学校現場・教育現場にいらっしゃる先生方のことを 非常に評価してるわけですね つまりこういうふうな画一的な教育環境の中でも 先生方が非常に苦労されて各生徒に合ったような 教育を提供しようとしているけれども しかし現状のままではシステムとして限界があると いうことを述べているわけです この中でクリステンセンは学習者中心の モジュール方式というものを導入すべきだと提案しています 例えば 学校の中にコンピューターベースの 個別学習プログラムを入れて さまざまな学習スタイルの生徒に対応した 補修教材を導入する このことによってあらゆる 学習スタイルを持った生徒に対して適切な 学習環境を提供する また、このような教材を使うユーザ主導型で コミュニティを作る こういうことが必要だと論じているわけです この本の中でクリステンセンらは 持続的イノベーションと破壊的イノベーション という2つの概念で 教育のイノベーションについても解説をしようとしています 持続的イノベーションとは 確立した競争平面での改良のことを指します それに対して破壊的イノベーションとは ある種性能の劣る製品を市場に投入することで 既存製品の軌跡を破壊する このようなことを言ってるわけですね 具体的な例を使って説明しますと パーソナルコンピュータが挙げられると思います かつてコンピュータというのは DEC(社)などの企業が開発した 大型の計算機だったわけです しかし1970年代・80年代と経るにつれて 個人が使えるコンピュータができた 当初はこのような 個人のコンピュータ、いわゆるパーソナルコンピュータ というものは 性能も非常に低く、ある種おもちゃのような存在 というふうに捉えられていたわけですが 時が経つにつれて パーソナルコンピュータの性能が上がり 結果的にこれが いわゆる大型計算機の能力を凌駕していって 現在に至るような状況になったということは 皆様ご存知のとおりだと思います このような仕組みというものをですね こちらの図でこのクリステンセンらは説明をしています これはいくつかの競争平面というものがあると 例えば、この一番奥の面というのが教育で言うと 最も伝統的、昔からある分野です つまり教師主導型の教育というものがなされてきたと その中で ここで行われているのが持続的イノベーションであって 教員の教え方であるとかさまざまな 小さい改良を繰り返していって ある意味その教育の質を改善している この緩やかな動きがあるわけです これに対して 例えばこの2つめの平面はオンラインコースですけれども オンラインコースを使うことで同じ内容を学ばせると もちろんオンラインコース、例えばMOOCなども その1つだと思いますが これのある種の性能というのは 対面で先生が教えることには とても現状追いついていないと思います けれどもこういうものが段々改良されていくことで いわゆるもともとの平面 つまり教師主導型の教育の能力を超えるのではないかと さらに個別指導ツールなどが出てくると それによって学習者それぞれの学習スタイルや 既有知識に応じた よりカスタマイズ化された 適切な教育というのが行われるようになって それがいわゆる既存の教育の性能を超えてくると 結果的に 今ある教育の姿を破壊するのはではないかと というのがクリステンセンらの主張です 一方でクリステンセンらは破壊的イノベーションが 起きるためにはいくつかの条件があるといっています その1つは 教育市場に無消費者がいるということです つまりこれまで教育を受けるという機会がない もしくはその必要を感じてないという方がいるときに このような新しい教育ツールが出てきたことで そのような新たに教育を受ける機会を手にする ということですね 例えば在宅学習、例えば生涯学習はその例かと思います もう1つは先ほど紹介した オンラインコースや個人指導ツールの性能が 既存の教育システムを超えると つまり個別教材ですとかMOOCのようなものが 既存の教育よりも よりある種効果的に学べるようになるということですね このためにクリステンセンらはモジュール型教材ですとか オンライン教材を開発するツールが必要だと 主張しています この論を受けてMOOCの破壊的イノベーションに 寄与する可能性について考えてみたいと思いますが MOOCは例えばこの無消費者 こちらに訴えていることは示されている つまり全世界からこれまで高等教育を受ける機会が なかった非常に多くの方が MOOCを通じて大学教育を受けられるようになったと 言うことですね また、このようなMOOCというのは 反転授業の教材としても使えるなどのこともありますし つまりこのようなオンライン教材を使うことで 既存の大学教育の姿の一部を変えるということは 現状起きているし、これからも進んでいくのかな というふうに考えられます MOOCが破壊的イノベーションとなるかどうかに ついては懸念も多いのが現状です 先ほど挙げた、このようなコンピュータベースの学習が 破壊的イノベーションを引き起こすかを 2つの条件がありましたが 懸念となるのは主にその2つめ こちらオンラインコースのようなコンピューターベースの 学習が画期的な発展を遂げるかということです つまり、このような学習環境を作るためには 個別指導向けのツールですとか このような教材を開発するコミュニティが育つことが 前提となるわけですけども 例えば個別指導向けツールを作る際に その教材で何を学ぶか どういうふうな技術を身につけたいのか このような知識構造やスキルセットが明確でないと インタラクティブな教材を作ることは難しいわけですね このような課題は 1970年代・80年代にコンピュータベースの さまざまな教育システム もしくは インテリジェント・チュータリングシステム というようなもので試されましたが ここでも同じような課題がありました 一方で近年注目されているようなビッグデータ つまり大量の受講者から 学習履歴データを集めて その中の振る舞いや様々な統計的事象を使って 新しいセオリーを生み出す学習理論のようなものを 検討していくということも可能かもしれません このようなことは、かつてのいわゆる知的CAIですとか インテリジェント・チュータリングシステムの頃は まだまだ難しかった手法ですので、このような手法によって コンピュータベースの学びというものが より発展を遂げる可能性もあります また、たとえ一部の分野であっても何かを教える 教授行為をコンピューターに置き換えるということは 教師の負担低減になるわけです つまり教師が普段、授業の中で 何かを頑張ってレクチャーで教えると こういうふうなことをですね ある程度オンライン教育に置き換えて、残りの時間を 生徒と対面しながら丁寧に学習支援をすると こういうふうな時間に裂くことで よりすべての生徒が十全に学ぶ という環境を作ることができるかもしれません というわけで当面の結論としましては こちらのようなことが言えるかと思います つまりMOOCによって 無消費者の獲得は大いに期待される このことによってこれまで高等教育さまざまな 学びの機会を得ることができなかった人が そのような機会を享受する きっかけを得るということは確かです 一方で このような破壊的イノベーションを進めていくためには モジュール型の教材プラットフォームが必要だろうと 特に教材の場合、この問題が大きいのですが と言いますのも 教材のある種のコンテンツの 粒度というのを揃えるのは非常に難しいわけですね 例えば ある講義について教える1時間半のスライド 1時間半のムービーというものがある一方で 非常にコンパクトな知識を短い時間で教える 例えばKahn Academyのようなビデオもあるわけです こういうふうなものを組み合わせてモジュール化 していくということは 教材ごとの持っている情報量 いわゆるその粒度が違いますので なかなか難しいわけですね この中で例えばConnexionsのような 教材はもともとモジュールとして格納して組み合わせる ことを前提にしたようなプラットフォーム もしくはそれを使うような教材制作 開発共有コミュニティみたいなものができれば このような問題がある程度改善される可能性もある ということです また一方で 教材の開発コミュニティ、その中の教材の 再利用ということで考えると 現状MOOCは 若干後退しているという現状もあります と言いますのも 一部のプロバイダーでは MOOCの上で公開しているオープン教材の 再利用を許可していないものがあるんですね つまりクリエイティブ・コモンズ・ライセンス というものがついていないので 例えばあるMOOCの上にある教材を 自分の授業に少し作り直して使いたいということが 実際、規約上許されないということもあったりするわけです こういう中で良い教材をどう作っていくかと考えますと やはり ある種の指導ツールもしくは教材制作ツールの 技術開発は欠かせないと思います このときに 例えばMOOCの中で 収集できる大量の学習履歴データ もしくは学習者の達成度、こういうものを きちんと判断して良い教材を作っていくというために 例えば教育学、例えば学習科学の知見などが 不可欠だと思います つまり、ある教材もしくはそれを使った教育環境を作ることで どの程度の学習効果を向上してドロップアウトが 防止できるかその要因がなんだったのかということを 綿密に評価していくことでこの教育環境、学び自体を より十全なものにしていくことができるわけです こういうふうなある種地道な努力ということが 破壊的イノベーションに含めても不可欠なのかなと思います