この講義では オープンエデュケーションと未来の大学というテーマで 解説をします この講義の学習目標は こちらの2つです 1つめがオープンエデュケーションがもたらす 大学教育へのメリット・デメリットについて説明できること もう1つは オープンエデュケーションの大学への導入モデルについて 説明できることです ここまでオープンエデュケーションの活動・特徴や現状 またはその背景にある様々な 状況について説明をしてきましたが ここではある意味この講義の締めとしまして こういうオープンエデュケーションというものが 例えば大学に 例えば社会の中でどういう意味を持つのかと いうことについて 提案をするということをやってみたいと思います もちろん、これがある一つの固まった答えというよりは 私なりの考えですので このような1つの考え方をたたき台としてですね 皆さんもこれからオープンエデュケーションが 大学をどう変えていくのか、社会の中でどう位置付くと より素晴らしいことになるのかということについて 是非それぞれ考えていただきたいと思います オープンエデュケーションの活動の広がりによって 起こること これは大学価値の再考ではないでしょうか つまりここまで紹介してきた バッジシステムや修了証のように さまざまな主体もしくは組織が 学習成果を認定するものを提供できるわけです そうなってくると そのような様々なバッジや修了証というものが 単位や学位と比べられるということもあるかもしれません つまりこれらが 知識や技能を示すシグナルと認められるようになると また、これはウェスタン・ガバナース・ユニバーシティの事例で 紹介をしましたが 能力に応じた単位認定 つまり15回の授業を受けるというだけではなくて その人の能力を見込んで その人に応じて授業をカスタマイズする ということが起こっていると こういうふうになると そこで得た単位や学位というものが また既存の大学が提供する学位と 比較してどう見られるようになるのかと いう問題もあるわけです また、大学教員についてもこのような変化は 例外ではありません さまざまなプロバイダ・コンソーシアムが MOOCを開講しその中で 世界の著名な教員という方が講座を公開しています こういう中で 大学教員はある種、グローバル競争にさらされていると 言えるのではないでしょうか つまり そのようなMOOCの上で 独自性の高い内容を教える教員が強みを増す また例えば既存のMOOCを使って 大学教育をするとなったときには 講義をするという職能だけではなくて学習支援をする ファシリテータとしての教員の能力が求められる これは教員に課された大きな職能の変化だと思います またCourseraやUdacityを例に挙げるまでもなく 高等教育に多様なプレイヤーが参入してきたと このような中で社会の中で 大学は一体何を提供できるのか 価値を再考するときに入ってきている というふうに考えています 一方で大学にとって オープンエデュケーションの活動を続けるというのは 非常に大変な作業なわけですね 私自身もこれまで東京大学や北海道大学で オープン教材の制作に携わってきましたが これはコンテンツを作る、著作権処理をする このためのウェブサイトを構築すると 非常に膨大な作業量があるわけです そのための さまざまな費用は人件費を含めて大学によって 賄われていると これを受けたときに 例えばCourseraやedX これはJMOOC、gaccoも含めてだと思いますが 外部の公開サービスを使うことで コストを削減できることは確かです また オープンエデュケーションは大学にとってある種の 副次的効果、つまりこれは第2週目で説明した いわゆる実利に結びつく部分があるという いうふうな部分も言えると思います つまり大学のプロモーション もしくは優秀な学生の確保の手段として オープンエデュケーションが位置付くということです しかしこのような副次的な効果のみで 本当にオープンエデュケーションの活動は 大学にとってペイするのでしょうか つまり例えばMOOCを開講するOCWで 講座を公開するということが大学にとって広報効果がある 優秀な学生が集まる と言われたとしても 例えばMOOCを開講し教材を公開して そのことによって得られたのが たった数名の優秀な学生だったとする これは本当に 大学にとってペイする行為なのでしょうか また例えば オープンコースウェアで教材を公開すると これがどれぐらい大学にとって広報効果を持ったかと いうことをある種測定することは非常に難しいわけですね こういう中で オープンエデュケーションが 大学にとっての意味 大学がこの活動を継続する意味があるのかと いうことが常に議論になると ということはどうしても避けられない部分だと思います このような中で オープンエデュケーションの副次的効果を高めるためには いくつかのポイントがあると私は考えています 一つは 利用目的のある教育コンテンツを制作すること つまり今ある事業を そのまま何かMOOCを作るということではなくて 新しく科目を作るですとか、何かのコースを立ち上げる 新しい事業作る必要があるときに そこで教育コンテンツを教育の質を高めるために 同時に作ると もしくはeラーニングを実施する 大学間で単位互換をするというときに オープンエデュケーションのやり方を使いましょうと いうふうにして、ある種利用目的を想定した上で コンテンツを作るということが一つの方法ではないでしょうか こうすることによって 単にオープン化のための教材というよりも大学教育の 質を高めるためのコンテンツということで大学の中でそれに お金を使う説明が付くということです となりますとオープン化というのは ある意味ついでなのかもしれません つまりこのように大学の中で作った 大学教育のための教材を優れたコンテンツとして公開する またはこのようなものをOCWやMOOCとして 公開していくことで 広報などの副次的な効果を期待するということです このときにどうしてもさまざまなコストがかかってきますが 例えばgaccoのようなプロバイダを活用することで アウトソーシングによってコストを削減する またはそのようなプロバイダを使うこと自体が 広報に繋がる、周知に繋がると このような効果も期待できるかもしれません このような議論を踏まえて 私はここから 大学におけるオープンエデュケーションの 3つの導入モデルを提案したいと思います 1つめが MOOC公開による大学教育の拡張です 大学はそもそも 教育活動だけを行っているのではありません 例えば研究活動 研究成果の発信 知の体系化 大学の中での人材育成、様々な機能が大学にあります その中の大学教育の機能を アウトソースすると これをMOOCでやるということですね このときに大学の中で培われた知能・成果を オープン教材 OERとして公開するということが 意味があるのではないでしょうか このようなモデルはまさに国内外のトップユニバーシティが とっている戦略だと言えます つまり大学の優れた教材を公開して このことによる 例えば大学の広報 リクルーティング 優秀な学生の確保などの副次的な効果を狙う ということです このような取り組みは ある意味教育機能のアウトソーシング と言えるかもしれません と言いますのも 先に述べたとおり 大学には 研究、知の体系化、人材育成さまざまな機能があります こういう中で 大学が担うべき機能をきちんと残した上で 例えば大学教育の アウトソースできる 例えばオンライン記録の部分を 外に出してその効果をより高めるということも 可能なわけです このときに繰り返しとなりますが 有名なプラットフォームに乗るという効果があるわけです 例えば大学は自前で 自分たちの大学のウェブサイトでMOOCを開講する というよりもedXやCourseraでコースを出す ということ自体がある種の宣伝になると このような方法をとっているのが 現在の国内外のトップユニバーシティ なのではないでしょうか 2つめの導入モデルは MOOCを大学教育に使うということです このときに大学はこれまで大規模講義をやっている中で その内容を用いた オープン教材を制作して反転授業に使うと そのようなものを自宅で視聴して学んできた後に 大学の授業では よりインタラクション性の高いような授業を行う こういうことで教育効果を高めることも可能なわけです また一つの選択肢として 自前の教材だけではなくてオープンに公開されている さまざまな教材を活用するということも可能でしょう この取り組みを昔からやっているのが カーネギーメロン大学の Open Learning Initiativeだと思います つまり自分たちの大学教育の質を高めるための オンライン学習環境を作り その中に個別指導システムを取り込むと このような教材を大学教育に使って教育効果を高めると 例えば学習進度を早める ような効果が見込めるわけです このように これまでの大規模な何百人と学生を集めるような 講義のスタイルを オープン教材やこのようなオンライン学習環境を使って ブレンド型の学習をすることによって より効果を高めるということも1つの選択肢として 可能なのではないでしょうか もう一つが大学連合モデルです 先に述べたようなOERを導入するモデルというのを 一校でやるとなかなか難しいわけです また 各大学がこれまで培ってきた教育の成果をOERとして それぞれ共有すると いうことが教育の多様化に繋がる可能性もある つまり、それぞれの大学が OERを少しずつ出していって それを共有しながらお互いに教えるということをすると このことによって 教育内容を一校でやるだけよりもより多様化する もしくは反転授業やアクティブラーニングのような手法を 導入することで教育の質向上を狙うこともできるわけです このような事例は海外にいくつかあります 例えば アメリカの複数大学が手掛けている Project Kaleidoscopeです これは教員グループが理数教育の教材を制作して 互いに授業で使うというプロジェクトのなのですが このようなプロジェクトが 教育効果を高めるだけではなくて授業の改善 いわゆるFaculty development または教育の質向上に繋がるという成果が出ています また、教材制作を教員だけではなくて学生に 手伝ってもらおうというのがこのdScribeです 残念ながらこれは既に終わってしまった プロジェクトなのですが 学生が教材を制作して使うことによって 学生が自ら 学習内容についてより深く理解するということが可能になる ということですね もしくはこれはひとつの仮設ですが、将来的に大学の 教員となるような大学院生が教材を作ることによって これまで学ぶ側だった自分のマインドを 教える側に変えていく いくということで彼らの将来的なFD、いわゆるプレFD と言われますけども そういうものに繋げていくということも可能だと思います このようなオープンエデュケーションの特性を活かして 教育を改善する 実践のことをOpen Education Practicesと呼びます このようなオープンエデュケーションの様々な特性 例えばコミュニティの中で教材を作っていって質を上げる それをコミ二ティの中で使っていくことで教育を改善していく このようなオープンエデュケーションのより良い部分を 使っていくことで教育の質を高め多様化をもたらすと いうことが期待できるわけです このように私はオープンエデュケーションというのは 大学を単純に変えてしまう、場合によってはMOOCが 大学を破壊するような考え方ではなくて 共存共栄は可能だと考えてます つまり、大学が教育のオープン化を活かしながら その副次的効果にも着目すると その中で大学の魅力発信、教育の質向上 多様化を図っていくと このようなことは可能だと思います しかしこれには一つ前提があって 大学ごとの特色を見据えた戦略が欠かせないのです つまり、それぞれの大学は 歴史・文化・特色を必ず持っているはずで その中で様々な 地域もしくは自治体との繋がりを作ってきたと思います そういうものをある種強める つまり大学のステークホルダーというものは 単純な大学の中の人間だけでなくて この地域ですとかその周辺にいる方々全てを含む と思いますから そのような中でつながり形成をしていく もしくは 大学が地域の中における意味合いというのを増していくと いうことを考えても オープンエデュケーションの様々な特性を活かしながら 大学をある種を強めていくということ そういう考え方が不可欠なのかなと いうふうに考えております